ろっぴーのブログ

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日本初演版「ドリームガールズ」感想

※ストーリー、演出のネタバレを含みます。
歌詞やセリフはなんとなくのニュアンスで捉えてください。
また、今回のプロダクションでしかこの作品に触れていない状態での感想なので、的外れな部分や知識不足な面があったら申し訳ありません。

IS THIS FREEDOM?

この作品において、開演前から舞台奥に映し出されている様々な英語のメッセージ。
その中で一番目を引くのは、白字で中央に配置された「I HAVE A DREAM」。
作品タイトルDreamgirlsに通じており、演出面においても極めて重要な役割を果たす言葉であることは、今回の日本初演版の観客にとって共通認識となる点だと思います。

ただ、私にとってはこれと同じくらい作品上大切だと思っている言葉があります。それが、I HAVE A DREAMの向かって右に並べられた「IS THIS FREEDOM?」。
なぜなら、苛烈な差別の状況を示すフレーズ、それに対する抵抗や人として当たり前に認められるべき権利を求める言葉が目立つ中、この2つは特に普遍的なメッセージ性を持つものと感じられたから。
そして1回目にこの公演を観て、「登場人物たちがカーティスの手のひらの上で成功を掴む1幕→現状から脱し、自由を勝ちとろうとする2幕」という構図になっているのでは、と感じたからです。
そこで2回目は最初からIS THIS FREEDOM?のメッセージを意識して観劇したところ、2幕で「自由」という歌詞が繰り返し歌われることに気づき、これは明らかに意図された演出なのだろうと確信したのでした。

ディーナはChicagoで「自由になる」と歌い、自身を縛るカーティスから決別し、
エフィとC.C.はI Miss You Old Friendで「やっと自由になる」と歌い、カーティスのプロデュース戦略により離れ離れになった過去を清算し、
ミシェルはQuintetteで「いい加減自由になりましょう」と歌い、カーティスの指示通り「金になる」曲作りを続けるのではなく、自分の心のままに行動するようCCに促すと同時に、彼女自身の現状への疑問をにじませる。
ローレルは直接自由という言葉を使わないものの、One Night Only (Disco)で「自分のために生きる」と歌い、ジミーとの関係を完全に断ち切ったのだと感じさせる。
The Rapのパフォーマンスでカーティスに見切りをつけられたジミーは、ショービズ的には挫折したのかもしれないけれど、「お前らが消えても俺は残る」の力強さが物語るように あの瞬間に自由を取り戻したともいえるのです。

主人公ディーナが真の自由を手に入れる場面で効果的に使われていたのが背景のI HAVE A DREAM
2幕前半のWhen I First Saw Youで映画出演を望むディーナに反対するカーティス、という二人のすれ違いが描かれたとき、真ん中にわずかな隙間が生まれてDREAMの文字が二つに割れる
つまり、「DREAM」はカーティスが生み出したスターであるディーナの象徴であり、この隙間は彼の夢、そして二人の関係に生じた亀裂を可視化したものであることがここで示されます。
そして2幕終盤、Chicagoの最後にディーナはその隙間を押し広げて完全に分断させ、カーティスの元から去っていくのです。
この場面、先に広がる光(に満ちた彼女自身による選択)に向かっていくというかっこよすぎる主人公演出なのに、颯爽と歩いていくのではなく、身をすくめるように立ち止まってから少しずつ進んでいく望海さんがディーナらしくて大好き。


このように「現状からの脱却、自由の獲得」が前面に押し出されている演出を踏まえると、特に2幕では本来Dreamgirlsにおける主要な軸であるはずの理不尽な差別というテーマが薄められてしまっている点は否めないかもしれません。
それでも、一貫して作品の根底にはこの問題があるのだと印象づける作りだったと感じます。

今回のプロダクションではキャストの肌を塗ることで「黒人」と「白人」の違いを示すのではなく、黒髪とブロンド、パーマがかったヘアスタイルとそうでないもの、など肌色以外のビジュアルで演出を行っていました。
言われなきゃわかんないよ!という細かな点ではあったかもしれませんが、Cadillac Carがパクられる場面など重要なポイントではセリフ上でも明確に説明されていたんですよね。
1幕ではジミーとツアーを回る道中、街中に溢れる差別的な表現が背景いっぱいに映し出されます。
ここでディーナの母親に電話をするとき、ディーナが口元に手をあてて声を潜めるように話しているのも理由があるはずと思って調べてみたのですが、これ!という資料が見つからず。おそらく、「黒人専用」の公衆電話を使っている人がいることを気づかれると暴行などを受ける危険があるからでは?と考えていますが…
その後、マイアミのホテルでの場面。ディーナが明らかにそれまでのパフォーマンスとは違って落ち着きなくきょろきょろしていて、その視線により、実際には舞台上にはいないけれど彼女たちを受け入れていない「白人」たちの存在が浮き上がっていました。ここも望海さん好き!となったポイント。

観客の理解が深まったであろう2幕のタイミングでは、ディーナを囲むファンの女性たちが全員「白人」として登場し、彼女が差別と偏見の対象である「黒人」の中でいかに稀有な存在かを感じさせるほか、ディーナに熱烈なオファーをかける映画のプロデューサー?も「白人」の外見をしています(差別の中でのし上がってきたカーティスが出演に頑なに反対するのは、この点が無関係ではないのかも)。
一方、ディーナが差別と闘い続けた役で映画に出ることにこだわるのは、「黒人」よりも大きな市場をもつ「白人」に迎合したスタイル(2幕冒頭のドリームズなんてまさに、じゃないですか?)を続けることへの抵抗や、彼女個人がアメリカ中の憧れの的になろうとも本質的な差別の構造はなくなっていないことへの葛藤があるからではないでしょうか。


作品全体についての話の最後に、細かいけど好き!となったポイントをいくつか。
①Cadillac Carのメロディーを口ずさむC.C.に真っ先にハモるエフィ
 姉弟として同じ音楽を共有してる感が現れていていいね!となりました。

②Cadillac Carのレコーディング前に十字を切るような仕草をするジミー
 勘違いかもしれないですが。新たな曲を生み出す現場は、彼にとって神聖な真剣勝負の場なのかなとグッときた場面でした。

③エフィとの再会の場面、無名時代と同じような気どらない服を着ているC.C.
 直前までは仕立ての良いスーツを着ているので、ガラッと変わった印象を受けると同時に 彼のエフィへの思いを感じるポイント。

④「限界しか見えてない」(カーティス)に対する「現実だ」(マーティ)という返し
 この言葉遊び感!好きです。

⑤「ありがとう、いい夢を!」
 これも、言葉遊びというか脚本の妙だなと思ったセリフ。
 あえて倒置法を使うことで、「皆さん、私たちにいい夢を見せてくれてありがとう」と「今までありがとう、皆さんもいい夢を見てね」のダブルミーニングにしているのでは?と思っています。

キャスト別感想

ここからは、主要登場人物&それぞれを演じたキャストについてさくっと。

ディーナ(望海風斗さん)

無名の少女時代からスターとして花開くまで、繊細に華やかに演じきった望海さん。大好きです。
今回は楽曲のジャンル的に望海さんの新たな挑戦を感じた場面がたくさんあったのですが、個人的に望海ディーナの白眉だと思うのはエフィとのデュエット(Chicago)。
ショーアップされたナンバーや、セリフをメロディーにのせて一方的に感情をぶつけるナンバーが目立つこの作品。情感豊かな歌声で丁寧に相手と心を通じ合わせるこのデュエットを終盤に聴いて、ああ望海さんの真骨頂ってこれだなとピースがはまるような感覚がありました。
ディーナがやっと自分の本心に向き合い、心の底からの声を届けている場面だからなのでしょうか。楽曲の長さがどうとか目立つソロパートがどうとかではなく、これこそが望海さんだ!と染み渡っていくような感覚が忘れられません。

エフィ(福原みほさん、村川絵梨さん)

作品の根幹であるソウルを担っているエフィのナンバーを、お二人とも素晴らしく聴かせてくれました。
それぞれのバックボーンが出ているのか、福原さんはよりパフォーマー的、村川さんはより役者的な印象を受けましたが、それはどちらが優れているということではなく、両方のエフィを観ることでより深く作品を味わうことができたと感じます。

ローレル(saraさん)

力強くパンチの効いた歌声、特に低~中音域の豊かな響きが印象的でした。
大先輩である岡田さん演じるジミーとの場面でも良い意味で遠慮が見えず、思いっきり演じていたのも素晴らしい舞台度胸だなと。

カーティス(spiさん)

ネタバレ込みでストーリーを全て把握してから観劇したせいか、登場シーンからspiさんの軽めなセリフ回しが胡散臭い!と思ってしまって…笑(もちろん褒めています)
カーティスというキャラクターについてはいろいろ思うところがあります。
ディーナをリードにした後、仕事とプライベートを切り離してしっかりエフィをフォローする様子がないあたり、彼女はいわゆる都合の良い女でしかなかったんじゃない?とか。そもそも本気じゃないならちゃんと避妊しろ(身も蓋もない言い方でごめんなさい)、結果的にお子さんがエフィの支えになっているからといって妊娠で彼女の人生狂わせたことには変わりねえぞ?とか。
ディーナのことも、彼自身は愛していると思っていたのかもしれないけれどそうは見えなくて。そもそも「愛している」とはっきり言うのが最後のデュエットFaith in Myselfだけで、繰り返し言うのは「君は俺の夢」だし。
ディーナは単に美しいトロフィーワイフなのではなく、カーティスが攻略した(成功した、ではなく攻略したのだと思う)ショービズの世界の象徴であり、彼は彼女を愛しているのではなく執着しているんだなという印象です。
…とネガティブなことばっかり書いてしまいましたが、彼はビジネスマンとしては人心掌握術だったり時流の読み方だったり間違いなく優秀で、そのあたりの魅せ方がspiさんは見事だったと思います。
演出の眞鍋さんは今公演のキーワードが「壁」だと話していたそうですが、その一つは社会に色濃く存在する差別。そしてもう一つは、ディーナたちの前に立ちはだかるカーティスという存在なのだと、spiカーティスの佇まいや歌声の圧・迫力によってすっと腑に落ちる感覚がありました。素晴らしかった。

ジミー(岡田浩暉さん)

1幕での勢いある華やかさ、頼りがいのある雰囲気から一転して2幕の「かつてのスター」感が見事でした。
また、ジミーが登場する場面ではどこかとぼけたような印象を受けるのですが、その後の場面からはその要素をあまり感じられなくなっていくところも。冒頭での空気感は長年の相棒であるマーティとの相乗効果によるもので、カーティスと出会い彼の方針で仕事をしていくうちにまとう雰囲気が変わっていったのかなと。
大きく立場が変わろうと、同じ人間が時を重ねたことによる変化なのだと感じられる筋の通ったお芝居、数多くあるパフォーマンスシーンでの力強さ!岡田さん以外のジミーは考えられないと思ってしまうほどでした。

C.C.(内海啓貴さん)

内海さんのC.C.が持つまっすぐさがとても好きでした。
エフィの弟なのにビジネスの上で意見を違えてしまう、という難しい立場に置かれる彼ですが、エフィへの情も仲間たちへの思いも、自分の音楽にかけるプライドも全部熱く客席に届いていて。ミシェルとのやり取りにも、思わず応援したくなってしまう純粋さがありました。

マーティ(駒田一さん)

駒田さんをこのポジションで観られる贅沢!
わかりやすいソロナンバーや長台詞がなくても、ジミーと共に歩んできた年月や業界で生き抜いてきた矜持が伝わってくるこの凄さ…
いち早く、1幕でカーティスと手を切ることを選ぶマーティ。去り際に彼が言う「全部は手に入らない」という言葉が2幕に入ってから他の登場人物たちにも降りかかっていくようですが、これは誰よりも長く業界にいる彼が身をもって知っている真理だったのだろうなと感じました。


日本版としてオリジナルとは異なるアプローチで作られている部分もあると思いますが、間違いなく素晴らしい公演です。
地方公演でも無事に上演が続き、この作品とキャストが放つパワーやメッセージが多くの観客に届きますように。